東京オリンピック来年7月まで1年延期へ:経済的損失と中止できないIOCの事情

コロナウイルスの世界中への拡大を背景に、オリンピック延期や中止の声は日増しに高まり、3月24日に1年延期が決定しました。

当記事は2月27日から可能性に言及し続けてきましたが、3月23日、安倍首相がアスリートファースト重視の意向とともに、初めて延期の可能性について示唆しました。また同日、IOC委員も同様の趣旨の発言をしています。

目次

延期決定までの経緯

2月27日深夜に、国際オリンピック委員会(IOC)で大きな発言力を持つ委員最古参のディック・パウンド氏が、7月24日開幕の東京オリンピックについて、1年延期の可能性に言及したと、ロイター通信により報じられました。

内容は下記の通りです。

「もし日程の再検討が必要となれば、理論上は同じ開催時期で2021年に延期される可能性がある」
「年内の延期については欧米のスポーツと開催時期が重なることから非常にまずい」
「看過できない事態でなければ、7月24日から開催する」

オリンピック自体の中止や、ロンドンでの代替案などの報道も早い段階で出ましたが、この頃はまだ現実味がありませんでした。収束しなかった場合の案として現実的なのは、この1年延期でしょう。中止となると、その経済的損失は計り知れません。

東京五輪の経済効果は、東京都より32兆円と発表されています。施設整備費や運営費、放映料などの直接的効果は約5兆円で、交通インフラ、バリアフリー促進などの間接的なレガシー効果は約27兆円。日本のGDPがそもそも約500兆円ですから、とてつもない影響があります。

数か月の延期は海外の様々な利権が絡んでくることもあり難しいですが、来年の同時期になると、期間も十分にあり、現実的な見通しが立てられます。流石に一年経てば、コロナウイルス問題も収束してるはずですし、1年後でも開催が叶えば、開催中止による莫大な経済損失を回避することができます。

この後、3月に入っても米国や欧州でコロナウイルスがより拡大し、円の乱高下と全世界の株安により世界中が大混乱となりました。欧州はイタリアを中心に大拡大し、中国ではデータの真偽も議論となっています。

3月11日のウォールストリートジャーナル日本版によると、東京五輪・パラリンピック組織委員会理事の高橋治之氏は、コロナウイルス感染拡大の影響で開催を1、2年延期することが一番現実的と話しています。ここで、1年未満の延期については、メジャーリーグやアメフト、欧州サッカーリーグなど、他のプロスポーツとの兼ね合いから、難しいとするコメントを出しています。

この後、東京五輪・パラリンピックの組織委員会の森会長によって否定され、12日には国際オリンピック委員会(IOC)から下記コメントが正式に出されましたが、いかにも日本的な対応で、一枚岩でないことはくみ取れます。

これまで同様に事態の推移を注視しつつ、WHOの助言も得ながら、予定通り7月の安全、安心な大会開催へ向けて準備していく

一方、同日12日深夜に、トランプ大統領より1年延期検討を指示する表明が出ました。これを受けて安倍首相と電話会談も行う予定で、何らかの影響を受けるかもしれません。いよいよわからなくなってきました。

この後、イタリアから欧州全体、米国全体へとコロナが波及しました。
そして23日、時事通信によると安倍首相が衆院の予算委員会で、初めて下記言及しました。

仮にそれ(予定通りの開催)が困難な場合には、アスリートの皆さんのことを第一に考え、延期の判断も行わざるを得ない

この発言から、中止は頭にないことがわかります。

続いて、カナダも公共放送CBCのツイッターを通じて、オリンピックが延期されない場合、派遣を取りやめる旨を表明しました。
これだけ続けば、今後は延期前提の議論でかじ取りされていくことになるでしょう。

更に同日23日に、IOC委員で2月27日に初めて延期に言及したディック・パウンド氏が、米国の取材に対して再び下記言及しました。

IOCはすでに延期を決めたと思う

この日は動きが多く、多くのアスリートがSNSでコメントを出しています。全体として、練習がまともにできないことから延期の方針を早期に打ち出してほしい旨の内容が多く、現役選手の意見は大きな影響を与えているようです。

24日、IOCのバッハ会長と安倍首相の電話協議が行われ、その後理事会が開かれることとなり、1年延期が確定しました。

延期時期は1年以内が有力ですが、詳細はまだ未定で、現在2021年7月開催を目途に調整が進められています。
遅くとも4月上旬には、来年開催日時が公表される見込みとのことです。

延期、中止の場合の経済的損失の試算と、IOCが中止できない理由

米ケーブルテレビ大手コムキャスト系列のNBCユニバーサルは、東京五輪の米国でのテレビ放映権として、11億ドルを国際オリンピック委員会(IOC)に支払っています。テレビ放映権とは、オリンピックの中継を独占的に放送するため売買される権利です。
基本的に1か国1つのテレビ局にだけ割り当てられ、高値で入札した放送局が落札します。

この放映権は回を重ねるごとに高騰し、ここ20年で2倍以上の金額となっています。IOCの決算報告書では、収入の7割以上が放映権の収入で、次いでチケット収入とライセンス収入を合わせると、収入の9割以上を占めます。中止すればIOCの経営に甚大な影響を与えるので、現状、現実的ではないでしょう。延期の場合は1年の他、2年後の可能性もあるようです。

この点、スポンサー企業は2020年12月までスポンサー契約が継続しますが、時事通信によるとスポンサー契約料の合計は3,480億円。来年度に延期した場合、この延期にかかる契約期間のスポンサー料金は追加で支払うのか否か、議論になりそうです。スポンサー企業は、2020年のロゴを付した商品やサービスを展開しますが、いよいよこれからという時に、広告の大きな機会を逸します。
2020年の開催が行われない場合、2020年のロゴも新規展開できなくなります。よって、スポンサー企業にとっては年内延期が望ましいという方向性になります。

関西大の宮本勝浩名誉教授の試算によると、東京オリンピック、パラリンピックが1年延期された場合の経済損失は6,408億円とのこと。これには、競技場、選手村等関連施設の維持管理費にかかる費用、選考会の調整に要する費用が含まれています。
これに対して、中止になった場合は4兆5,151億円と、7倍以上の金額となります。また、SMBC日興証券は、中止についての損失を7兆8,000億円と試算しています。こちらは国内消費の落ち込みや貿易額も加えた額です。加えて、第一生命経済研究所の首席エコノミスト、永浜氏によれば、2020年に被る損失として3.2兆円。

これらの試算は計算の前提がまちまちで、仮定の要素が大きいので人によってブレが大きくなるのは当然です。少なくとも、延期であれば中止に比べて損失額がかなり限定されるいう点は正しいでしょう。

一方、数か月延期という選択肢は、コロナの鎮静化だけでなくアスリートファーストも考えるのであれば、困難かもしれません。

選手はオリンピックに選考されるために人生をかけて取り組んでおり、これで笑った人と、泣いた人がいます。
当ブログも色々なブレイク寸前の方を見てきていますので、より実感します。

一年後となると、加齢とともに、より成長する方もいれば、そうでない方もいて、状況はガラッと変わります。
よって、感情論を排すれば、当然にもう一度セレクションすべきということになります。
これは本年、オリンピックに出場することが決まった選手にとっては非常に厳しい話です。

ただ、他の案はどれも現実性に乏しく、この延期案が当初から一番現実的であるように思えてなりません。

今は、コロナウイルスを収束するのを願うばかりです。

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