今日は非認知能力についてもう一歩踏み込み、懐疑的に考えてみたいと思います。
非認知能力とは、数値で具体的に表すことができる認知能力の反対語です。認知能力は数値なので答えは明確で、能力であればIQなどで表現することができます。一方、非認知能力は数字では表すことができない能力で、正解はなく、自己肯定感や自制心、社会性、好奇心、想像力、共感力、主体性、柔軟性、忍耐、やり抜く力などが含まれます。
昨年書評を書きましたが、非認知能力は2000年にノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・ヘックマン教授が著書「幼児教育の経済学」で研究成果として広めた考え方です。こちら、読みやすい内容ですので、直接読むことをお勧めします。下記記事に要約しているのでご参照ください。
幼児教育の経済学 ジェームズ・J・ヘックマンの研究成果について
ヘックマンの研究成果として非認知能力を理解したいのであれば、日本で人気のボーク重子さんの著書を読めば、わかりやすく書いてあります。私は講演とサイン会にも出席させていただき、著書を2冊読みましたが、最新の「非認知能力」の育て方のほうが論点がまとまっていてわかりやすく感じました。
【非認知能力の教育】「世界最高の子育て」著者のボーク重子さんの講演に行ってきました。
結論として、ヘックマンの研究の結果、詰め込み教育で学力を伸ばすより、非認知能力を意識した教育が将来の社会生活で重要とされることがわかりました。詰め込み教育は認知能力たるIQを短期的に上昇させることはできるが、長期的には上昇しないからです。
さて、私がヘックマンの記事を書いたのはもう半年以上前ですが、この半年で、非認知能力という言葉は非常に有名になりました。
なぜなら、2020年からの学習指導要領の改訂により、重視される能力が変わってくるからです。
具体的には、認知能力から非認知能力へと評価するポイントが変わります。すなわち、これまでは一つの解を求める問題が多かったものを、今後はそのプロセスを重視するようにしようというものです。
例えば、マーク式から記述式になるケースが多いのも特徴ですね。入試においてもこれまでの学生生活で得た経験自体が自身の評価となります。すなわち、問題も考えさせてその発想を評価するなど、プロセスや人物を評価する一面があります。
この非認知能力の受験評価への反映はアメリカで1990年頃から始まりました。30年遅れで日本で導入されることになりますね。
日本は1990年後半から長い不況期を経ましたので、米国の非認知能力と、日本の認知能力の教育の差のように考えがちですが、必ずしもそれだけとは言えず、慎重に考える必要があると考えます。
この点、非認知能力で言われているメリットは下記の通りです。
・自己肯定感が醸成され、積極性や幸福度が上がる。
・困難な局面において、耐え抜く精神力や、自ら解決していく能力が養われる。
・長期的な学力UPが期待される。
上記は、非認知能力で検索するとたくさん出てきますし、書籍もたくさんあります。
ですが、手放しで賞賛するのは危険と考えます。理由は下記の通りです。
・日本人がこれまで行ってきた認知能力は本当に誤りだったのか?
→日本の経済発展に照らすと、戦後から現状まで受けてきた日本の教育水準は低いとは言えない。
・米国から導入した考え方はうまくいくとは限らない
→会計士監査におけるJSOXも米国から導入したが、形式だけの対応でフィットせず、東芝など様々な会社で問題が発生した。
・答えがない試験というのは試験で不正や誤った結果を招きやすい。
→プロセスの正しい評価となると、評価する側の能力も必要となるが、正しい判断ができるかは未知数。
いかがでしょうか。
例えば、私は個人的には小学校受験の評価システムはあまり好きではありません。子供たちが遊んでいる状況を限られた時間で
見て、その中できらりと光る子を評価するからです。先生が見過ごせば、見誤ることになり、そのミスジャッジも闇に葬られます。
プロセスを評価することは非常に危険を伴います。これから米国の物まねをして、評価できるかわからない方が評価するわけです。これは非常に危険です。試験で落ちた方に言わせると、あなた自身がしっかり評価できてるんですかと言いたくなるでしょう。
また、私自身に置き換えると、我ながら私自身が非認知能力を醸成する教育を受けた、と認識しなければピンときません。
実際、中学校まで公文と進研ゼミしかやってませんが、公立はトップ校ですし、お金の工面も自分で考えて意思決定し、新聞配達して働いて稼いで予備校へ行きましたし、大学もそれなりの大学で無償の奨学金をもらい、会計士試験も合格しました。
まさに非認知能力を実践した生い立ちだと思うのですが、受けた教育としては「昔ながらの早期教育」です。
ボーク重子さんも「早期教育を否定するつもりはありませんが」と注釈している通り、この非認知能力のみを重視すぎる教育方法には気をつけたほうが良いと考えます。非認知能力はその教育方法に曖昧なところが多いので、日本の伝統的な教育の中に、そもそも非認知能力があったと考えることもできます。
このため、大切なお子様の教育方針としては、認知能力と非認知能力を1:1程度の割合で教育していけば丁度良いのではと考えます。創造性を働かせて、認知能力と非認知能力の必要性を自分で論理的に、批判的に考えて判断し決断するプロセスこそ、現代社会において必要なのではないでしょうか。
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